Mr.Children 30th Anniversary Tour 2022 半世紀へのエントランス 5.4 バンテリンドームナゴヤ公演 ライブレポ

 2022年5月10日をもってデビュー30年を迎えたMr.Childrenの全国ツアーが、4月23日の福岡公演を皮切りに行われている。その4公演目であり、また29年周期の最後の公演に当たる5月4日 バンテリンドームナゴヤでのライブ模様を届けたいと思います。ここからはネタバレありとなりますのでご注意下さい。

 

 

 

 

セットリスト

 0.OP

 1.Brand new planet

 2.youthful days

 3.海にて、心は裸になりたがる

 4.シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~

 5.Replay

 6.Any

 7.くるみ

 8.Drawing

 9.タガタメ

 10.Documentary film

 11.DANCING SHOES

 12.Loveはじめました

 13.ニシエヒガシエ

 14.Worlds end

 15.永遠

 16.others

 17.Tomorrow never knows

 18.fanfare

 19.エソラ

 20.GIFT

   ~ENCORE~

 21.Your song(弾き語り)

 22.生きろ

レポの前に

 まず私がMr.Children を意識して聞くようになったのは2008年、当時中学1年でした。家にあった13thアルバム「HOME」を聴き、SUNRISEとフェイクに魅了されて彼らの音を聴き入るようになりました。それからは常に最も好きなバンドとしてMr.Children の音楽を聴き続け、大学時代には全国津々浦々、参加可能な範囲でライブに足を運ぶようになっていました。

 私自身社会人になってからはライブへの時間を確保できにくくなったのと、2020年に蔓延し始めた新型コロナウイルスの影響でライブ自体が開催できなくなったのをきっかけに、音楽への熱が落ち着き、気づいたら3年が経っていました。

 3年も空けばメンバーの年齢的な衰えのことや、私自身彼らの音に触れて感動しきれるかということなど、何かと心配事も生じてくるものです。しかし蓋を開ければ個人的には間違いなく過去最高の音楽体験と言えるものになりました。(因みにこれまでは同じMr.ChildrenのHall Tour 2016 虹 鎌倉芸術館公演以上のライブは生涯ないだろうと思ってました) このライブに参加できただけでも十分価値があることだと承知していますが、ここで欲が出て、もう少し先に踏み込みたいと思いました。

 音楽の持つ力は作り手と受け手の間だけで成り立つでなく、受け手と受け手が語り合ったりすることでその価値をより高めたりできるものだと思います。私のライブを通した思いの丈をなるべく鮮明に記すことで、また違った発見に私自身が至ることもあるのではないかと思います。もしもこのツアーを振り返りたい人やMr.Childrenのライブに少しでも興味のある人がこの記事を見て、何か思ってくれたなら幸いです。ちなみに音楽理論や楽器についての知識はほぼないので、素人の感想だと思って下さい。

各楽曲レポ

0.オープニング

 定刻の16時。場内は入退場使用の照明に照らされたまま「優しい歌」のオーケストラアレンジが唐突に流れ始め、1番のメロディーが終わると同時に暗転。新型コロナの影響で声だしNGではありますが、まるでどよめきが起きたような拍手の音が響きました。

 オープニングでモニターに映されたのは、5月11日リリースのベストアルバムのトレーラーを基調とした映像、過去のシングル・アルバム・ライブ映像などの断片断片が走馬灯のように映っては流れていく。そして最後にステージ前に大きく表れたエントランスの扉が開かれ、1曲目Brand new planetが始まります。

 

1.Brand new planet

 この曲が好きな方は多いのではないでしょうか?透明感抜群だし、大サビで転調してからの解放感で心掴まれてしまいますよね。しかし、今回生でこの曲に触れて思ったのは、普段CD音源を聴いている時に抱くこれらの感情とは異なるものでした。

 CD音源ではアーティストから人々への「一方向的な音の発信」という要素が強いですが(一概にそうとは言えませんが)、生演奏になると、その時々の時代風潮・場所の空気感・個人の置かれた状況などの一回性を踏まえた「コミュニケーション」要素が強くなります。紆余曲折はあれど、久しぶりに彼らの生の音に辿り着くことができた喜びを桜井さんが代弁して歌にしてるような感覚が今回のBrand new planet にはありました。「新しい”欲しい”までもうすぐ」です。

 

2.youthful days

 20年近くもライブ定番曲としてMr.Childrenを支えてきた名曲。この楽曲に触れて爽やかな気持ちと切ない気持ちの両極を同時に抱く人も多いと思います。今回特に強調的だったのはCメロのギターの歪みで、過去どのライブにも増してかっこよかったです。

 この曲の爽やかな気持ちと切ない気持ちのせめぎ合いは、遠い昔のことを回想した時に湧きおこる気持ちと似ています。幸せな気持ちになるのに恥ずかしかったり青臭くて痛々しかったり、、と。曲中の「サボテンに花が咲いて無邪気に喜ぶが、棘が多くて刺さる」なんて情景描写は、まさに象徴的です。

 

3.海にて、心は裸になりたがる

 爽やかさと切なさは追い打ちをかけるように続きます。照明はまさに海の水色を基調にし、濁りも迷いもない澄み渡った気分を連想させますが、やはり私には「いま心は裸になりたがっているよ」というフレーズのリフレインが、逆に「心を裸にしたいのにできていない」現状を色濃く映し出してるように感じて胸がいっぱいになります。

 

4.シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~

 今回は花火がなかった(?)り映像演出が少し控えめで、ある意味夏フェスのようなシンプルな楽しみ方ができました。この曲のヤケクソ感と純朴さが、50歳をとっくに過ぎたはずのメンバー達にピッタリ似合ってて可笑しくなりました。

 

5.Replay

 直前のMCで、およそ30年前に発表された恋の曲と銘打って演奏。当然30年前に私はまだ生まれていないし、この曲を知ってから十数年足らずではありますが、どことなく懐かしさを感じます。この感情は何だろうと考え、ふとモニターに映ったメンバーの顔を見たときに、そこに映っているのが、過去の映像を流しているのかと思えるくらい若々しい青年たちに見えて思わず目を見張りました。いえ、間違いなく現在の渋みを増したオジサン達が映っていますが、その佇まいや空気感は青臭くて若くて浅い青年たちそのものでした。懐かしいっていう感情は、個人の記憶の違いこそあれ何らかの形で伝染していくものだと思います。

 

6.Any

 ライブではThanksgiving25ぶりである原曲アレンジでの披露。今回のライブの肝となるような曲。2番のAメロにあるような「悦に浸って走った自分を時代のせいにした」過去を責めても始まらず、かといって頑張るように促すのでもなく、「間違えじゃない」と最低限の感情の置き場を示すことで、それだけで救われる心もあるのだと。

 

7.くるみ

  直前のMCにて花道中央ステージへ移動。桜井さんのMCを一部抜粋します。

 

過去を振り返って思うのは、様々な人に支えられてきて幸せ者だということと、『あの時どうしてあんなことをしてしまったのか』とか『もっと優しく接することができなかったのか』という後悔。年を重ねていくにつれて後悔の気持ちの方が大きくなってくる。次の曲は離れ離れになってしまった人、嫌な思いをさせてしまった人、それでも近くにいてくれる人に、色んな思いを詰め込んで届けたい

 

 まず、一番を桜井さんが弾き語りで歌ったのですが、サビの「どんなことが起こるんだろう」のファルセットが非常に伸び伸びして美しかったです。声の出し方が変わったのでしょうか?

2番から他の演奏も加わり、本楽曲最大の盛り上がりを見せる大サビの出だしで再び桜井さん一人になります。これは意外なアレンジ。

 「今以上をいつも欲しがるくせに変わらない愛を求め歌う」

暗転した舞台でそのフレーズが静かに響き、直後たたみかけるように他の楽器も加わり怒涛のグルーヴ感で大サビを披露。

 「この必要以上の負担にギシギシ鈍い音をたてながら」

このフレーズが他のどのライブより切実に響いてました。

 

8.Drawing

 こちらは原曲アレンジ。ドームのような大規模のスケール感で聴くと普段と違った印象を受けます。例えばサビやCメロの盛り上がりより、Bメロの伸びが際立ち、とても綺麗でした。

 

9.タガタメ

 再び本ステージ。SEとともにモニターに映しだされるのは新緑の木々。それらがやがて無数の星々の映像に変わったところで「ディカプリオの出世作」というフレーズが飛び出しました。この賛否両論激しい問題作がアニバーサリーという場で演奏されたのが以外に思いましたが、後半になるにつれてその衝撃がどんどん大きくなります。私にはこれまでのどのタガタメよりも強く圧倒されるものがありました。メッセージ性の正しさや誠実さといったものではなく、言葉の外で何かを表出せずにはいられないという彼の作家性、というよりむしろ普遍的な人間らしさを見せつけられた気がして涙が止まりませんでした。

 

10.Documentary film

 前半戦の締めくくり。桜井さん本人が雑誌のインタビューで「誰に見せるでもなく日記みたいにして生まれた曲」(ROCKIN’ON JAPAN 2021年1月号)と言っていましたが、その誰かに理解してもらうことを前提にしていないが故の生々しい空気感のようなものがビリビリきます。個人的には、Cメロのギターソロに伴って短冊状のモニターが写真のネガに変わる映像表現が忘れられません。

 

11.DANCING SHOES

 後半戦の幕開け。第二のオープニングであり、ここから箍が外れ始めます。オフマイク気味にシャウトしながら「Do it!」と叫ぶ様子は鬼気迫るものがありました。圧巻!!

 

12.Loveはじめました

 火つけ役がDANCING SHOESだとしたら、この曲で本物の火が上がりました(笑)Mr.Children のライブで炎の演出があるなんてとても珍しいのですが、これは完全に去年のB’zとの対バンを意識してらっしゃるのでしょう。でもよりによってこの曲で、と少し可笑しくなります(笑)

 シュールな演出はさておき、冷え切ったLoveが本物のそれのように振る舞い街を闊歩するカオスな情景が、ライブではこの身で体感できます。

 

13.ニシエヒガシエ

 出すならこのタイミングしかないと思った所で、本当に満を持したかのようにこのイントロ。本ライブ最大の興奮です。今回桜井さんは腰振りの代わりに大きいジェスチャーで踊ってて気持ちよさそうでした。

 

14.Worlds end

 これも予想が当たりました。この位置にふさわしいのはWorlds endしかございません。先程まで散々がんじがらめに縛られた時代とその中で押し合いへし合いもがいていく様を描いてきて、最後に「何にも縛られちゃいない、だけど僕ら繋がっている」と力強いアンサーを示したようで、ガッツポーズを取りたくなってしまいます。

 

15.永遠

 本ライブの目玉の一つ。序盤の桜を思わせるピンクの色合いの映像が、後半になるにつれて徐々に深い色合いになっていく。以前ライターの森田恭子さんが自身の著書『歌々の棲家』の中で桜井さんの死生観について触れ「誰かを失った悲しみを乗り越えるなんて一生できないと思っています。乗り越えない。引き受ける。悲しみや寂しさとともに生きていく。それが帰らない人との唯一の架け橋なのではないか」と記していました。それを踏まえて聴くと、曲の最後にだけ登場する、タイトルにもなっている「永遠」の2文字が悲しくて優しい。

 

16.others

 麒麟特性ストロングのCMで有名な本楽曲の邦題は「もう一人の男」。もう一人の男とはこの曲の主人公のことで、本命彼氏がいる女性の浮気相手として振り回されている男の物語。出だしでは「君の指に触れ」とあり恥じらいの気持ちが感じられますが、終盤になってくるにつれ気分が乗ると「君の胸に触れ」と白状し、何となく変な気持ちになる曲です。

 ところが、今日の桜井和寿は出だし第一声からいきなり「君の胸に触れ」て気が早かったです。(笑)  もはや曲の趣旨が変わってきます。その後も1か所歌詞を間違えてましたが、それらも含めてその会場だけのちょっぴり危険なothersを楽しめるという意味で、ライブの醍醐味なのかもしれません。

 

17.Tomorrow never knows

 前曲は2人の男女(+1人?)間というミクロな世界の曲だったのに対し、ここで一気にスケールが肥大化します。特にCメロから大サビに転調する箇所が、映像演出の広大さと相まって(Thanksgiving25の時のような地球上を飛び回る鳥?の視界映像)爽快でした。次のfanfareへの橋渡し的な役割も果たしており、ライブのどの場面でも使えて万能な曲だと感じました。

 

18.fanfare

 この曲が来たらもう委ねるしかないでしょう。Mr.Childrenの大砲ソング、ファンファーレ!何発でもどうぞ!

 

19.エソラ

 POP SAURUS2012のイントロアレンジと同じ入り方でした。「youthyul days」や「海にて、心は裸で-」や「Replay」と同じく、この楽曲にあるのは楽しさと切なさのせめぎ合いです。歌詞の中にも二律背反な歌詞が登場します。幸せな気持ちと悲しい気持ちは本質的には同質だとよく言われますが、桜井和寿も言葉によってそういう自分の中のセンシティブな部分を分断することに違和感があって、でも吐き出すためのツールとして音楽を使っている様に感じられます。(違ってたらごめんなさい) 

 

20.GIFT

 本編最後の曲。久しぶりにライブで聴くと、この曲のコミュニケーション能力の高さに驚きます。GIFTは楽曲と腹を割って語り合う時間だと私は思っています。

 

21.Your Song

 ここからはアンコール。ギター片手に桜井さんが一人で再登場し、MCで「Your Songを演奏します」と説明。一人でYour Songを⁉ と、私は頭の中が?になったのを覚えています。この曲と言えば、2018年の重力と呼吸ツアーでも、2019年のAgainst All Gravityツアーでも、会場全体を煽りたてて皆で「オーー」と声を張るのが売りであって、今は感染症対策で客は声出せないし、桜井さんもギター一本でしんみり弾き語ろうとしてるし、一体どうなってしまうのか、といった予見を持ちました(笑)

 しかし、その条件だからこそ今この場で演奏する意味があるのだと、歌い始めてすぐに悟ることになります。大観衆が総出で声を張ってた過去を知るからこそ、対比するように、今という時代が目に見えないものでがんじがらめになって声すら出せないでいることを引き立てていました。桜井さんの歌声にも心なしかもの寂しさが漂い、特に曲の終わりに一人で「オォー 」とシャウト気味に叫ぶところは言葉になりません。

 

22.生きろ

 30周年ツアーの大トリが長年温められて愛されてきた過去の楽曲ではなく、まさかこれからリリースする楽曲(しかもシングルではない)になるとは!あくまで過去ではなく、今の、そしてこれからのMr.Childrenを見せていこうとする気概に満ち満ちていました。ここ数年のMr.Childrenの曲には「終わり」や「死」を連想させる作品が多かったのに対し、そんな自らへのカウンターともとれるシンプルな「生きろ!」のリフレインは、初見でも聴きごたえのある熱い感触でした。